半年で卒業研究をやった感想
半年で卒業研究を実施したので,その過程をまとめます.
概要
某大学某学部某学科では,教育制度の変更に伴い,いわゆる「卒業研究」*1を,学部4年の前期で終わらせることになりました.その新制度1年目を経験したので,記録や所感を残したいと思います.
最初に注意ですが,あくまでも筆者が体験した年の話なので,今後全く同じことが繰り返されるとは限りません.また,本稿を参考にして何か問題が生じたとしても,筆者はいかなる責任も負うことができません.そして最後に,筆者は学術研究を始めて1年しか経過していませんので,本稿でのコメントが適切ではない可能性もあります.
以上を予めご了承の上で,適切な情報取捨選択と共に,参考にしていただければ幸いです.
新制度について
大学側*2の主張や考え(として筆者が聞いているもの)は,主に以下2つです.
- 「1年間だらだらと研究を行うより,半年という短い期間で研究プロジェクトを回した方が,教育効果が高いのではないか」
- 「(大学院への進学率が90%を超えるため)学部の卒業研究では,研究内容よりも,研究のやり方や論文の書き方等を重点的に習得するべきである」
これらの考えについては,読者の皆様に置かれても是非が別れると思いますし,実際学内でもかなり別れているようですが,本稿でその議論は行いません.
重要なのは,研究の内容よりも,研究の体裁(研究のマネジメント,発表,論文執筆などの型)を重視しているという点です.後述しますが,より詳しい解釈については研究室毎に異なるようでした.
筆者の環境について
工学系で理論をやっている研究室(教授1名,助教1名)で研究を行いました.
スケジュールとイベント
実際に遂行したスケジュールについて記します.あくまで,一例です.
本稿のタイトルで「半年でやる」と書きましたが,前期の授業期間で終わるようにするわけですから,実態としては着手から発表まで約3か月半しかありません.
下表は,主なイベントの一覧です.
時期 | イベント | 備考 |
---|---|---|
3月中旬 | 研究室配属 | |
〜3月末 | 研究室内での教育期間 | 課題をこなす系のやつでした |
4月頭 | 研究テーマ確定 | 事務(教務)への書類提出を伴います |
5月GW明け | 第1回目の研究室内進捗報告 | |
6月1週目 | 第2回目の研究室内進捗報告 | |
6月3週目 | 第3回目の研究室内進捗報告 | |
7月2週目 | 第4回目の研究室内進捗報告 | 発表内容の確定はここで決まりました |
7月1,2週目 | 発表練習 | 3回やりました |
7月3週目 | 発表 | 発表5分質疑4分 |
(この間) | 大学院入試 | ※ 進学する人のみ |
8月末 | 論文提出 | これで終わり |
表内のイベントについて
研究室配属
強い気持ちを持って,生き残ってください.
研究テーマの選定
運命の分かれ道です.
多くの研究室では,指導教員が予め用意したテーマの候補から自分の興味に沿うものを選ぶというのが一般的なようです.一方で筆者の所属する研究室では,テーマの持ち込みが許されており,筆者は持ち込みテーマで研究を実施しました.
持ち込みテーマ vs 与えられるテーマ
まず,研究室によって持ち込みが許されているかが変わるので,それを確認しておくべきでしょう.その上で,持ち込みテーマには相応のリスクが伴うことをご理解ください.
持ち込みテーマのアドバンテージは,確実に自分の興味に沿っている,という点です.次節でも書きましたが,多くの時間を研究に割くという点において,興味があるという事実に勝る研究動機はないと考えます.
与えられるテーマには,それ以上のアドバンテージがあります.まず,多くの場合それは教員や卒業生が過去に取り組んでいたテーマの続きです.つまり,その研究室には,知見やリソース(文献やシミュレーション・実験等の環境)がかなり多くある,ということです.また,教員が提示している,ということは基本的に「その期間で終わるであろう」というある程度の見積もりが立っている,ということです.
私の結論は以下の通りです.
- 特に強い意志と覚悟がない場合については,与えられるテーマの中から選択するのがよい
- 持ち込みテーマで実施する場合は,リスクを理解した上で,先輩や指導教員と十分な相談と見積もりを行い決定するべきである
何でテーマを選ぶべきか
個人的意見ですが,卒業研究に関しては,興味と工数(研究に割く時間)の兼ね合いで選ぶべきだと思います.
少なくとも4月〜8月までは,そのテーマと共に時間を過ごすことになります.全く興味がないテーマではやる気が湧かず,進まず,精神状態を悪化させる……というようなことにもなりかねません.①少しでも興味が湧く,あるいは湧きそうなテーマを選択するか,②(可能なら)選んだテーマが上手く自分の興味の向く方向へ持っていくこと,を勧めます.
一方で,興味だけでも研究は成立しません.縛られることの少ないプライベートな趣味と異なって,研究には必ず締切が伴います.更に卒業研究においては,一応卒業の要件となっているわけですから,期限内にしっかり終わらせる,ということが必須です.
また,研究に要する時間というものは,本人の基礎知識や技術・ノウハウによっても大きく変動します.もちろん,それらがあればかなりのアドバンテージを持って研究に着手できます.具体的には,調査や学習に関するコストの低減が挙げられます.これには大きく2つの捉え方があり,①調査や学習に使う時間まで自身の研究の考察に使える,②単純に研究時間が減るので,他のこと(授業履修やバイト等)に時間が使える,というものです.研究に対する優先度は人それぞれなので,どちらでも良いと思います.
まとめると,「興味の有無」「かかりそうな時間」に対して,各個人の裁量で選ぶのが良い,というのが筆者の意見です.
- 「楽だけど興味のない」テーマは,ちゃんと心の中で割り切らないとかなり辛いと思います.
- 「めちゃくちゃ面白そうだけど1年かかりそう」なテーマも,あまり適切ではないと言えるでしょう.(こちらの場合は,もちろん一概にダメというわけではなく,もしどうしてもそのようなテーマをやりたい場合は,3か月分の進捗で部分的に発表することが可能か,発表の後はどうするのか,など長期的視野で指導教員と相談してみてください.)
月ごとの報告会
筆者の所属する研究室では,月に一度,研究室のメンバーが全員集まる報告会がありました.院生の先輩方や,教員とかなり濃い議論が行なえる場で,とても役に立ったと感じています.
一方で,報告に用いる資料が十分な情報量を有していないと,そもそも議論が成されず,ただただしんどいイベントになってしまいます.(筆者も1回このような回がありました.)成果や疑問など,研究の過程で生じたものについては継続的に記録し,解決してもしばらくは破棄しないでおくことを勧めます.
発表練習
多いに越したことはありませんが,2回やるとかなり安心です.1回目の練習でフィードバックをもらい,それを以って修正した発表を2回目の練習でやると,非常に有効でした.
指導教員が多忙な場合等では,1回しか見てもらえないことがあります.その場合は,1回目については先輩や同期に見てもらうのも良いでしょう.
また,質疑応答の再現というか,聴講者から聞かれた内容に簡潔に答える練習も,しておくと良いです.ついでに言うと,わからない・回答できないものには,素直にそう答える練習をしておくと,回答するという行為への心理的ハードルが下がるかもしれません.
本番発表
質疑応答は怖いですが,死にはしないので,強く生きてください.
寝坊だけ充分に気をつけてください.
表にない話
助けてサイン
持っている時間があまりないので,詰まったらすぐに助けを求めましょう.だいたい,1〜2日経っても解決しなかったら助けてサインの出しどきです.自分で長く抱え込むと碌なことになりません.
詰まったときのフローですが,
詰まる→インターネットや,(あれば)関連しそうな本の目次とかで探す→(一晩,二晩置く)→先輩を捕まえて聞いてみる→先生助けて!
という感じが比較的自然かと思います.もちろん,先輩には指導の義務はないので,あくまでも好意によるものであるということを忘れず……
また,教員によっては,教員室に突撃OKな場合と,アポを取ってほしい場合があるので,早い段階でそれを確認しておくべきでしょう.
気分転換
締切が淡々と迫ってくるので,不安感が増すのは必然的ですが,適度に休養を取ってください. 週末を返上しても,研究成果の対価として心身の健康にダメージが入る場合がほとんどです. また,自分が思っているよりも脳はつかれるので,食事と睡眠はしっかり取りましょう.
私の場合は旅行へ行ったりしてかなりリフレッシュしました.一方で,時期についてはよく考えましょう.7月に入ってから平日に旅行に行くのはとても愚かです.愚か最高!
授業の履修について
大学院科目を並行して履修できる場合があります. 筆者は並行して6単位取りましたが,結構厳しかったです. たかだか4単位が現実的かと思われます.
何が求められていたのか
正直これは最後までわかりませんでしたし,今でも謎です.
発表内容についても研究室毎に全く異なり,大別しても①実験・シミュレーションをやってみました系,②いわゆる卒業研究と似たようなことをやりましたがまだ途中です系,③いわゆる卒業研究と似たようなことをやり終わりました系,の全てが共存していました.③については,成功したケースと失敗したケースの両方がありました.いずれの場合も,結果について適切に考察していれば問題はないといった感じでした.
教員の評価も,内容についてより,プレゼンの能力を測っていたように思いますし,多分今後もそうなる気がしています.